日常を語ったり、読んだ書物を語ったり、ぼちぼち文を書いたりして遊ぶ現実逃避ブログ。頭は中学二年生で止まってます。
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夜市奇譚1
2009-11-15 Sun 21:56
 恒川光太郎の『夜市』が面白かったので、つい...。




「今宵、夜市が開かれる」

 女が歌うように呟いた。少年は訝しげに視線を本からあげる。
 ここは女が己の影の中に作り出した秘密の部屋。その生涯で集め、拾い、買ってきた多くの物を置く為に創られた部屋である。女は日々、この部屋を影ごと引き摺って歩く。彼らにとってはここは物置部屋であり、休息所でもあった。
 その部屋は壁も天井も果てなく広い。そのどこまでも黒い『部屋』の真ん中とおぼしき場所にある古びた二つのソファー。それらの上から二人の会話は交わされる。
「…ヨイチ?」
 少年は咄嗟の事で字が思い浮かばない。『夜』に市場の『市』で夜市だ、と女は言って立ち上がった。
「そこでは、見合うモノさえ払えば何でも手に入るのさ。望む物全て。」
 そう言って女は歩き出す。その先には地蔵のように並ぶ八個の金庫があった。座り込み、そのうち三つの扉を開けて吟味するよう中身を見つめた後、女は金やら玉を選び取った。そんな女の様子を少年をぼんやり眺めていたが、はっと顔を上げて女に問う。
「もしかしなくても、それって闇市場の事ですか?」
 さっき、何でも手に入るとか言ってなかっただろうか。それは非合法で物を取引きすることを意味するのではないか。
「馬鹿たれ。夜市は“夜市”自体が詐欺や窃盗を許さぬような神聖な市場だ。ドラッグ臓器人身売買等々がメインな場所では無い。」
その言葉に少し安堵する。が、
「しかし本当に何でも売っているから、そういうのもあるにはある。色んな店があって色んなモノがあるから、ぶらつけばいつかは見つけるかもな。」
 結局は売っているのではないか。冷や汗が頬を伝った。そんなところに行って良い目はしないのは確実だろう。恐る恐る、窺うように聞く。
「…行くんですか?そこに。」
「聞くに及ばず」
 女はさらっと言ってのけ、絶句した少年を気にせず漁ったそれらを革の袋に詰め込み始める。口笛を吹きながら。
「…」
 至極楽しげである。呆れる少年を気にせず、女は作業を進めていたがふと頭をあげて楽しげな口調でこう言った。
「さっき夜市は闇市場なのかと聞いたな。言葉のままの意味ならば、あそこは闇市場だ。夜市は森の中にあるんだ。永劫明けやしない夜闇の中にな」
「それは…ますます暗くなりますね。心が。」
 夜市。全てが手にはいる市場。夜の森に開かれる市場。少年は溜め息を吐いた。深く深く。


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